- 安全に関する風土をなかなか変えることができません。
- 現場作業者と管理職(スタッフ)との壁があり、根深い問題です。
- セミナーや教育などを受けてもなかなか具体的な例を教えてくれないため分かりにくいです。
このような悩みを抱える安全担当者は多くいると思います。
組織風土を変えることは、一人の力では本当に難しいことです。
私自身は、安全上に問題のある事業所へ転勤・支援を行ってきました。
そのなかでの経営トップによる影響について実体験を紹介したいと思います。
これが絶対に正しいということではありませんので、あくまで一例として参考にしてください。
経営トップの重要性
安全管理において、経営トップの役割は非常に大きいものです。
ISO45001では、【5.1リーダーシップとコミットメント】
にて経営トップの方針や安全衛生活動への関与の重要性がうたわれています。
安全衛生管理において、「人的資源」や「設備的資源」を適切に配分することは経営判断そのものであり、経営トップの責任が非常に大きいものとなります。
私自身は、安全学を勉強するなかで、研究者たちが経営トップが大事だ!ということは理解できます。
しかし、抽象的すぎませんか?と思うのでは私だけでしょうか?
研究者は、さまざまな対象者へ向けているため、どうしても具体性は乏しくなります。
少しでも具体的な例を共有できればと考えています。
新任支店長の現場を変えた2つの言葉
災害が連続して発生をしている支店がありました。
親会社(発注会社)からは、
「これ以上災害が発生するようでは、安心して作業を依頼できない」
「組織を変えたほうがよいのでは?」と言われるほどの状態でした。
その後、組織が大幅に変更されます。
支店長、副支店長、安全担当室長、安全担当スタッフ、製造室長などが段階的に交替するほどの組織改編でした。
私も安全担当スタッフとして参画をさせていただきました。
その支店の現状は、現場管理者がかなり職人気質な方が多く、スタッフも若手が多く、忙しいなかで若手育成やスタッフ育成が出来ていない現状でした。
事務所と現場管理者と現場作業者の連携や信頼感が全くない状態でした。
若手は納期のために無理な仕事をし、現場管理者も無理な指示を出し、スタッフは現場実態が把握できていない。
そして災害が発生をする。スタッフはベテランの現場管理者より年下のなか、頑張ってマネジメントをしている状況でした。
そのようななか、新しい支店長が発した2つの言葉で、現場が支店長に目を向け、事務所と現場の連携が取れ出したのです。
新しい支店長が発した言葉は、次の2つでした。
「会社のことを考えて、無理な不安全な作業はするな!自分の体のことを最優先に考えろ!」
「ラインを止めても現場作業者のせいにはならない。辞めさせることもない。」
たったこの2つの言葉を発したときの、現場の「えっ!?」という顔が今でも忘れられません。
現場は今まで会社のために、危ない仕事もしたし、無理な納期も間に合わせた。そんな職人気質な方が多かったのです。
その後、職人気質の現場管理者はアドバイザーへすべて交替しました。
世代交代が進むなかで、支店長は朝礼や会議でさまざまな安全に関する話をすることにより、無災害職場が形成されていきます。その期間は、たった2年間でした。
そして3年目には、無災害職場が形成されました。
なにより、その間に売り上げや利益は変わりませんでした。
新任支店長に学んだこと
2つの言葉を紹介しましたが、他にも当然さまざまな安全活動を実施しました。
それはまた別の機会に紹介します。
今回は、その支店長に焦点をあて、私が学んだことを3つ紹介します。
1.自分の命が最優先であることを常に説く
2つの言葉にありましたが、安全は最優先であり、安全において会社のためなんて考えるな。
自己中心的で良い!ときっぱりと言っていました。
現場作業者は、職人なので、何も言わなくてもプロ意識や納期意識などは持っています。
自分の技術をしっかりと活かさないといけないと感じていました。
そんななかで安全は会社のことを考えなくてよいという言葉は非常に響きました。
これを2年間言い続けることで、3年目には現場作業者の意識を完全に変えていました。
2.常に現場目線で発言する
支店長が現場に発信をするときに、現場目線での発言を常にしていました。
スタッフはどうしても、現場に「〇〇のように行ってください」「〇〇のようにしてほしい」などの指示事項が多くなります。
しかし、支店長は主語を現場作業者にします。
「現場としては、〇〇にしたほうがよい」「現場は〇〇しましょう」などの言葉の使い方です。
”支店長は”という主語にはしません。
常に現場目線で、現場が何をすべきかを説くことで、現場が変化していきました。
3.現場は大がかりな改善を望んでいなく、小さいけれども数多くの改善を望んでいる。
現場とスタッフ(事務所)との壁を埋める初動はこれを心がけることです。
スタッフと現場の壁がある場合は、現場の意見を聞くことで風土改善をはかります。
スタッフは合理的にリスクを考え、より効果的なものに改善を行っていきます。
しかし、現場は実はそれを望んでいないのですね。
現場は、小さなことでも現場のために改善してくれた!これが必要なのです。
お金がかかったとか、稟議書に苦労したなどのスタッフの気持ちは現場には分かりません。
結果として「やってくれたか、やってくれなかったか」これだけです。
大きな改善も当然必要ですが、現場との壁を感じているスタッフの方は、まずはこれを2年間続けましょう。
現場が変わります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は、経営トップに視点を当てて、実体験を紹介しました。
トップが変われば、良くも悪くも、支店や事業所全体を変えることができます。
自らがトップではなくても、同じような気持ちや発言、行動を繰り返すことにより、少しずつ安全な職場形成ができると私は信じています。
私自身もその支店での3年間でさまざまな活動や体験、苦労がありますがここではすべては書ききれません。
ぜひぜひ今後も別の機会に紹介していきたいと思います。
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