最近では、60歳を超えても本当に元気な人が多く、現場で作業を一緒にしています。
少子高齢化の影響もあり、若手の数が少なくなっていきます。
さらに、製造業や建設業、重工業系の作業場は、若い人の採用が難しくなってきています。
そんなときにやっぱりベテランの方の力(能力と経験)は偉大だと思っています。
今回は、ベテラン者への教育の必要性を解説します。
ベテラン教育の必要性
近年、高年齢者の災害は増加傾向にあります。
令和元年度労働災害発生状況を下記に示します。
実は、60歳以上の方の労働災害件数が最も多いのです。そして、前年と比べて唯一この年代が増加しています。
平成30年度以前を見ても同様の傾向にあり、なにより他の年代と比べて増加傾向が顕著に表れています。
厚生労働省としても、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(000623027.pdf (mhlw.go.jp))を公表し、危機感がうかがえます。
ベテラン者への配慮における法令条項
ベテラン者への配慮については、法令条項があります。
労働安全衛生法第62条
事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行うように努めなければならない
※「その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者」とは、身体障害者、出稼労働者等である。
安衛法便覧より
このように事業者へ対して、適正な職場配置をするように要請されているのです。
中高年齢者の年齢について、労働安全衛生法では定義されていませんが、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では、
高年齢者:55歳以上 中高年齢者:45歳以上
と定められています。
ベテラン者が注意すべき5つの項目
事業者は、職場配置について配慮を行わなければいけませんが、ベテラン者みずからも若い時とは異なり、安全意識をさらに高く持つ必要があります。
今回は、ベテラン者が注意すべき5項目を紹介します。ぜひベテラン教育の参考にしていただければ幸いです。
【ベテラン者が注意すべき5項目】
- 1.記憶力、反応速度、バランス感覚
- 2.高所作業
- 3.重量物
- 4.段差
- 5.若手への作業指示
1.記憶力、反応速度、バランス感覚
1つ目は、こちらです。これは、注意というよりは、認識をしなくてはいけないことです。
年齢を増すほど、経験値は増えていきますが、「記憶力」「反応速度」「バランス感覚」が低下していきます。
経験値は増えていることから昔よりも作業が効率的に実施できているように感じているかもしれませんが、身体は衰えが出てくるころです。
まずはこの状況を認識するようにしましょう。
「記憶力」に対しては、確認作業を昔以上に行ったり、自らの記憶を頼りにしない。
「反応速度」に対しては、急いだ作業を行わない、危険を回避する能力が衰えていることを認識する。
「バランス感覚」に対しては、無理な体勢で作業をしない、昔以上に安定した体勢での作業が求められます。
2.高所作業
2つ目は、高所作業です。高年齢者の高所作業は若いかたよりリスクが高くなります。
理由は2つ考えられます。
①高所でバランスを崩した際に、体勢を戻すことが若手に比べてできにくくなります。
これは、高所でなくても、高年齢者が1.5mの脚立やはしごなどからの落下などで被災するケースからもうかがえます。
②経験による慢心や自信などによる安全帯の不使用や高所対策の不備
実際に、下記データから見ても、高齢者が墜落転落災害にあっている確率(千人率)は多くなっています。
3.重量物
3つ目は、重量物です。
これは、身体的な衰えを自らが感じている場合は、無理をしないことを認識しやすい項目です。
しかし、45歳以上の中高年齢者から意識すべき事項だと感じています。
身体への負担は、日ごろの積み重ねにより徐々に身体に痛みなどをともなってきます。
腰痛を筆頭に、腕の痛み、肩の痛みなどが出てきます。
最終的に危険な状態が目の前に起きた場合に、うまく身体が動いてくれないことにより被災するケースが想定されます。
重量物の運搬方法は、台車を使用することや、20kg以上の荷物は持たないなどの制限をかけることをオススメします。
4.段差
年齢を重ねてくると、視力の低下や、足の上げ方などが自らが脳で感じている以上に衰えてきます。
その差(ギャップ)が、わずか1,2cmの高さのつまづきにつながります。
作業環境の改善のなかで、段差の解消などがあげられますが、そもそも極めて平らな状況を作り出すことは難しいです。
日ごろの整理整頓が重要になってきます。
足元の配線をなくして空中配線にすることや、置き場区画による通路確保などの5S対策が必要になります。
実際に、下記データからもわかるように高年齢者の転倒災害は、増加傾向にあり、国としても対策を呼び掛けているところです。
何より若手ではわからない部分があります。作業場の改善などを積極的に進言していきましょう。
5.若手への作業指示
最後はこちらです。
高年齢者のケガに直接的に関与するわけではありませんが、若手への作業指示は注意が必要です。
なぜなら、若手への作業指示が不十分なために、トラブルなどが発生し、自らがサポートをしなければいけない。
そのような状態になりケガをします。
これは、忙しい職場などで、班長や職長が応援に入らなくてはならずに被災するケースと似ています。
若手が安定した作業を実施するためには、具体的な作業指示が重要になります。
大前提として、高年齢者の方は、設備の知識が若手よりもあり、トラブル処置に柔軟に対処できます。
これはなぜかというと、昔はトラブルも多く、設備や機械も今に比べると複雑ではなかったために、自らが保全のプロにまかせるのではなく自らで解決できていたからです。
現在の設備は、トラブルが発生することも少なくなったことに加えて、機械のデジタル化が進み、電子回路上のシステムは見ているだけでは分かりません。
機械のなかで完全にブラックボックス化しています。
若手はそのような環境で、トラブル処置や設備の構造などをしにくい状態になっています。
そのため、「俺の背中を見て育て」は本当に通じません。
また、放置していて勝手に知識を身に付ける可能性は、昔よりも減少していることを認識しなくてはいけません。
よって、作業指示はより具体的に行う必要があり、トラブルを想定した作業指示が重要になってきます。
作業指示書の具体化や、KYの際の危険抽出の想定範囲を上げることなど、ベテラン者は若手に対してより丁寧に指示をすることが重要です。
最終的に、現場が安全になり、トラブルなどで自らが現場の第一線で対応することもなくなり、ケガのリスクも減るということになります。
まとめ
今回は、ベテラン者が注意すべき5項目を解説しました。
- 1.記憶力、反応速度、バランス感覚
- 2.高所作業
- 3.重量物
- 4.段差
- 5.若手への作業指示
安全担当者については、冒頭でも述べていますが、法令事項(労働安全衛生法62条)があります。
高年齢者へは配慮が必要なのです。
その部分を理解したうえで、ベテラン者への教育に活用してみてください。
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